
全国を巡る「ご当地B級グルメ」の旅も、いよいよ最終章となる中国・四国編にたどり着きました。
これまでのシリーズでは、北国ならではの力強い味、都市部の多様性、関西の親しみやすさ、そして九州・沖縄の勢いある食文化を辿ってきましたが、中国・四国エリアのグルメは、それらとは少し異なる表情を見せてくれます。
この地域のB級グルメは、派手さや話題性で押してくるというよりも、食べ終えたあとにじわりと残る印象が特徴です。港町の酒場で出会う一皿、地方都市の食堂で何気なく頼んだ定食、夜の街でつまむ軽い一品──。どれも日常に根ざした料理でありながら、旅先で味わうことで、その土地の空気や暮らしが自然と重なっていきます。
中国地方は山と海に挟まれた地形が多く、四国は本州から一歩離れた独自の文化を育んできました。その地理的背景は、食にも色濃く表れています。素材の活かし方、味付けの方向性、食べるシーンまで含めて、「その土地らしさ」が料理に宿る。だからこそ、このエリアのB級グルメは、「観光名物というより“暮らしの延長線上のごちそう”」として心に残ります。シリーズの締めくくりとなる今回は、そんな中国・四国エリアの中から、旅先で実際に食べに行けて、なおかつ“B級グルメらしい魅力”をしっかり感じられる10品を厳選しました。
知らなかった一皿に出会う楽しさ、そして「次はここへ行ってみたい」と思わせてくれる余韻を、ぜひ感じてみてください。
《目 次》
- 中国・四国エリアの“B級グルメの魅力”とは?
- 旅先で味わう、中国・四国“傑作B級グルメ10選”
2-①広島(広島県)|噛むほど旨い希少部位を楽しむ「こうね焼き」
2-②岡山(岡山県)|黒い見た目が記憶に残るローカル飯「えびめし」
2-③鳥取(鳥取県)|ホルモンの旨みが鉄板で弾ける「ホルモンそば」
2-④高知(高知県)|夜の街でつまみたくなる「高知屋台餃子」
2-⑤尾道(広島県)|背脂と醤油のキレが染みる「尾道ラーメン」
2-⑥今治(愛媛県)|甘辛タレと半熟玉子の破壊力「今治焼豚玉子飯」
2-⑦出雲(島根県)|香りと歯ごたえで味わう割子文化「出雲そば」
2-⑧高松(香川県)|日常に溶け込む完成形「讃岐うどん」
2-⑨徳島(徳島県)|甘辛豚バラと生卵がヤミツキ!「徳島ラーメン」
2-⑩浜田(島根県)|ピリ辛と魚の旨みが広がる港町名物「赤てん」 - 中国・四国のB級グルメは「旅の途中」でこそ輝く
- まとめ:中国・四国編で見えてきた“日本のB級グルメ地図”
1. 中国・四国エリアの“B級グルメの魅力”とは?
中国・四国エリアのB級グルメを語るうえで欠かせないのは、「日常性」と「土地との距離の近さ」です。
この地域の料理は、観光客のために作られた特別な一皿というより、地元の人たちが普段の食事として親しんできたものが、そのまま旅人にも開かれているケースが多く見られます。
港町では、仕事終わりに立ち寄る酒場で軽くつまめる料理が育ち、地方都市では食堂文化の中で満足感のある一品が磨かれてきました。山あいの町では、保存や調理の工夫から生まれた独特の味付けが今も受け継がれています。
こうした背景があるため、中国・四国のB級グルメは「これを食べれば、その町の輪郭が少し見える」──そんな感覚を与えてくれます。
また、このエリアのグルメは旅のリズムと相性が良いのも特徴です。量が過剰すぎず、価格帯も気軽。昼にしっかり食べても、夜にもう一軒立ち寄れる余白が残ります。鉄板焼きや丼もの、屋台でつまめる料理など、シーンに応じた選択肢が自然と揃っているため、無理のない食の計画が立てやすいのです。
さらに、中国・四国は都市同士の距離が比較的コンパクトで、移動しながら食文化の違いを楽しめるエリアでもあります。味付けの濃淡、素材の使い方、食感へのこだわりなど、隣県でもはっきりと個性が変わるため、「同じB級グルメでもこんなに違うのか」という発見が旅をより面白くしてくれます。これから紹介する10品は、いずれもそんな中国・四国らしさが感じられるものばかりです。
派手な主役ではないけれど、旅の記憶を静かに支えてくれる──。
そんなB級グルメの魅力を、このあと一品ずつ紐解いていきます。
2. 旅先で味わう、中国・四国“傑作B級グルメ10選”
<中国・四国エリアの人気ご当地B級グルメ10選>
- 広島(広島県)|噛むほど旨い希少部位を楽しむ「こうね焼き」
- 岡山(岡山県)|黒い見た目が記憶に残るローカル飯「えびめし」
- 鳥取(鳥取県)|ホルモンの旨みが鉄板で弾ける「ホルモンそば」
- 高知(高知県)|夜の街でつまみたくなる「高知屋台餃子」
- 尾道(広島県)|背脂と醤油のキレが染みる「尾道ラーメン」
- 今治(愛媛県)|甘辛タレと半熟玉子の破壊力「今治焼豚玉子飯」
- 出雲(島根県)|香りと歯ごたえで味わう割子文化「出雲そば」
- 高松(香川県)|日常に溶け込む完成形「讃岐うどん」
- 徳島(徳島県)|甘辛豚バラと生卵がヤミツキ!「徳島ラーメン」
- 浜田(島根県)|ピリ辛と魚の旨みが広がる港町名物「赤てん」
2-① 広島(広島県)|噛むほど旨い希少部位を楽しむ「こうね焼き」

広島の食文化といえばお好み焼きが真っ先に思い浮かびますが、地元の人に一歩踏み込んで話を聞くと、焼肉屋や居酒屋で当たり前のように登場する“通好み”の一品に出会います。それが「こうね焼き」です。こうねとは、牛の肩バラ部分にあたる希少部位で、赤身と脂の層がきれいに重なっているのが特徴です。
鉄板や網でさっと焼かれたこうねは、見た目以上に軽やかで、噛みしめるほどに脂の甘みがじんわりと広がります。霜降り肉のような派手さはありませんが、肉そのものの旨みが前に出てくるため、食べ進めるほどに印象が深まっていきます。塩だけで食べても十分に成立し、店によってはタレや薬味で変化をつけることもあります。
広島市内では、焼肉店だけでなく、酒場感覚で立ち寄れる店でもこうねを見かけることが多く、地元では特別な料理というより“あると頼みたくなる定番”の位置づけです。観光客向けに強く打ち出されているわけではない分、旅先で偶然出会えたときの満足感はひとしおです。派手さよりも滋味深さ。
広島らしい“裏の名物”として、静かに記憶に残る一皿です。
2-② 岡山(岡山県)|黒い見た目が記憶に残るローカル飯「えびめし」

初めて「えびめし」を目にすると、その黒さに思わず手を止めてしまいます。真っ黒なご飯にエビが混ざり、見た目だけでは味の想像がつきにくい、そんなインパクトこそが岡山のB級グルメ「えびめし」の魅力です。
えびめしは、スパイスやデミグラスソースをベースにした特製ソースで炒めたご飯が特徴で、口に入れると見た目とは裏腹に、甘みとコクのバランスが取れたやさしい味わいが広がります。エビのプリッとした食感がアクセントになり、重すぎず、それでいてしっかりと満足感があります。
岡山市内では、老舗の洋食店からカジュアルな食堂まで幅広く提供されており、地元の人にとっては「たまに無性に食べたくなる味」。カツや目玉焼きをのせたアレンジも多く、店ごとに個性が出やすいのも特徴です。旅先でえびめしを選ぶと、いかにも“岡山らしい日常”に触れたような気分になります。観光地の名物というより、地元で長く愛されてきたローカル飯。だからこそ、食後には不思議と土地の距離が縮まったように感じられる一品です。
2-③ 鳥取(鳥取県)|ホルモンの旨みが鉄板で弾ける「ホルモンそば」

鳥取のB級グルメとして知られる「ホルモンそば」は、名前に“そば”とついてはいるものの、ラーメンやそばとはまったく別の存在です。鉄板の上でホルモンと野菜、麺を一緒に焼き上げるスタイルで、立ち上る香ばしい匂いが食欲を一気に刺激します。
主役はあくまでホルモン。噛むと旨みがあふれ出し、その脂が麺やキャベツに絡むことで、全体の味が一体になります。ソースは店によって濃淡があり、甘めの味付けからパンチのあるものまで幅広く、どの店でも「鉄板料理ならではの臨場感」を楽しめます。
鳥取市周辺では、屋台風の店や大衆食堂で気軽に注文でき、地元の人にとっては仕事帰りや週末の定番メニュー。観光客向けに過度な演出がされていない分、実際に食べてみると“これぞB級”と感じるリアルさがあります。スープのない麺料理だからこそ、焦点は香りと食感。
鉄板の前で焼き上がりを待つ時間も含めて、旅の記憶に残る一品です。
2-④ 高知(高知県)|夜の街でつまみたくなる「高知屋台餃子」

高知の夜を歩いていると、どこからともなく漂ってくる香ばしい匂いに足を止めたくなります。その正体が、高知市中心部に根付く屋台文化と、そこで親しまれている「高知屋台餃子」です。観光向けに作られた名物というより、地元の人たちが自然と集まる夜の定番メニューとして定着しています。
高知屋台餃子の特徴は、薄めの皮と小ぶりなサイズ感。ひと口で食べられる軽さがあり、外はパリッと、中はジューシーに仕上がっています。ニンニクは控えめで、脂っこさも少ないため、何皿でも食べ進められてしまうのが魅力です。ビールやハイボールとの相性も良く、会話を楽しみながらつまむのにちょうどいい存在です。
屋台という空間も、この餃子のおいしさを引き立てています。隣り合った客同士の距離が近く、自然と会話が生まれる。旅先でありながら、気づけばその街の日常に溶け込んでいる、そんな感覚を味わえるのが高知屋台餃子の醍醐味です。「しっかり食べる」というより、「夜を楽しむために食べる」。
高知らしいおおらかさを感じさせてくれるB級グルメです。
2-⑤ 尾道(広島県)|背脂と醤油のキレが染みる「尾道ラーメン」

「尾道ラーメン」は、こってり系ラーメンとは明確に一線を画す存在です。澄んだ醤油スープに背脂が浮かぶ見た目から、重たい味を想像しがちですが、実際には驚くほど後味が軽く、旅の途中でも無理なく食べられる一杯として親しまれています。
スープは魚介の旨みを感じさせる醤油ベースで、そこに背脂が加わることで角が取れ、口当たりがやさしくなります。脂が主張しすぎないため、飲み進めるほどに旨みが広がり、最後の一口まで飽きがきません。麺はスープを引き立てる脇役に徹し、全体のバランスを整えています。
尾道の街は坂道や細い路地が多く、歩いていると自然と小さなラーメン店に出会います。観光地として整えられすぎていない店も多く、地元の常連客と観光客が同じカウンターに並ぶ光景は、この街ならではのものです。昼食としても、散策途中の一休みとしても、ちょうどよい存在感があります。派手な演出はないけれど、静かに満足感が残る。
尾道ラーメンは、港町の空気とともに味わいたい一杯です。
2-⑥ 今治(愛媛県)|甘辛タレと半熟玉子の破壊力「今治焼豚玉子飯」

「今治焼豚玉子飯」は、見た瞬間に「これは間違いない」と確信させてくれるビジュアルを持っています。白いご飯の上に、甘辛いタレをまとった焼豚が重なり、その上にとろりとした半熟の目玉焼き。シンプルながら、食欲を直撃する構成です。
焼豚はしっかりとした味付けで、ご飯が進む設計。そこに卵の黄身が絡むことで、味が一気にまろやかになります。甘さとコク、肉の旨みと卵のやさしさが一体となり、最後まで勢いよく食べ切ってしまう人が多いのも納得です。
今治市内では、老舗から食堂まで幅広く提供されており、地元の人にとっては日常的な一杯。特別な日に食べる料理ではなく、「今日はこれでいい」と自然に選ばれる存在です。だからこそ、旅先で出会うと、その土地の生活感がそのまま伝わってきます。がっつりしていそうで、意外と後味は軽い。
今治焼豚玉子飯は、満足感と気軽さを両立したB級グルメです。
2-⑦ 出雲(島根県)|香りと歯ごたえで味わう割子文化「出雲そば」

「出雲そば」は、“そば”そのものを楽しむための工夫が随所に感じられる一品です。割子と呼ばれる朱塗りの器に盛られ、重ねて提供されるスタイルは、見た目にも印象的ですが、単なる演出ではなく、食べ方そのものがこの地域に根付いてきた文化を反映しています。

殻ごと挽いたそば粉を使うため、色は濃く、香りは力強いのが特徴です。噛んだ瞬間に広がる風味は、他地域のそばとは明らかに異なり、「そばを食べている」という実感がしっかりと残ります。つゆを上からかける割子そばは、つけ汁よりもそばの香りが前に出やすく、薬味との組み合わせによって味の変化も楽しめます。
出雲のそば店では、観光客向けの特別感よりも、日常食としての落ち着いた雰囲気が大切にされています。地元の人が当たり前のようにそばをすすり、旅人も同じ空間で同じように食事をする。その自然な空気感が、出雲そばのおいしさを引き立てます。観光で歩き疲れた身体に、静かに染み込む味わい。
出雲そばは、旅のペースを整えてくれる存在です。
2-⑧ 高松(香川県)|日常に溶け込む完成形「讃岐うどん」

「讃岐うどん」は、すでに全国区の存在でありながら、現地で食べるとその印象が少し変わります。高松周辺では、うどんは“ごちそう”ではなく、日常そのもの。朝からうどん店が開き、地元の人が当たり前のように一杯を食べていく光景が広がっています。
コシのある麺と、いりこ出汁をベースにしたつゆ。その組み合わせは驚くほどシンプルで、派手さはありません。しかし、その完成度の高さが、何度食べても飽きさせない理由です。トッピングも天ぷらやねぎなど素朴なものが中心で、自由に組み合わせる楽しさもあります。
セルフ方式の店が多いのも、讃岐うどん文化ならでは。注文から受け取り、食べ終えるまでの流れが早く、旅の合間にも無理なく組み込めます。「今日はもう一軒行ってみよう」と思わせてくれる軽さも魅力です。うどんを食べること自体が、香川の暮らしに触れる体験。
それが讃岐うどんの持つ力です。
2-⑨ 徳島(徳島県)|甘辛豚バラと生卵がヤミツキ!「徳島ラーメン」

「徳島ラーメン」の面白さは、「一つの名前でありながら、実はまったく違う表情を持つラーメンが存在する」点にあります。多くのご当地ラーメンが比較的シンプルな定義で語られるのに対し、徳島ラーメンは店や地域によって味の方向性が大きく異なるのが特徴です。その違いは、大きく分けて「茶系」「黄系」「白系」の三つに分類されます。
まず、最もよく知られているのが茶系と呼ばれるタイプです。濃いめの醤油スープをベースに、甘辛く煮込んだ豚バラ肉をのせ、生卵を添えるのが定番スタイル。見た目はかなり濃厚ですが、生卵を溶かしながら食べることで味がまろやかになり、意外にも箸が止まらなくなります。徳島ラーメンの“王道”といえる存在で、初めて訪れる人がまず出会うことの多い一杯です。

次に黄系。こちらは茶系ほど醤油が強くなく、スープの色合いもやや明るめ。豚骨の旨みと醤油のバランスが取れており、甘さや濃さが控えめな分、食べやすさが際立ちます。茶系では少し重たいと感じる人でも、黄系ならすっと受け入れられることが多く、地元でも根強い支持があります。
そして白系は、見た目からして印象が異なります。白濁したスープは豚骨の存在感が前に出ており、全体的にまろやかな口当たり。甘辛い豚バラを使わない店もあり、生卵を入れずに完成形とする場合もあります。同じ「徳島ラーメン」の看板を掲げていながら、まったく別のラーメンを食べているような感覚になるのが白系の面白さです。
徳島市内には、こうした系統の異なるラーメン店が点在しており、食べ比べがしやすい環境が整っています。「今日は茶系でガツンと」「次は白系で落ち着いた一杯を」と、その日の気分で選べるのも徳島ラーメンならではの楽しみ方です。甘辛豚バラと生卵という強い個性を持ちながら、実は懐が深い。
徳島ラーメンは、旅先で「味の違いを楽しむ」体験まで含めて完成するB級グルメです。
2-⑩ 浜田(島根県)|ピリ辛と魚の旨みが広がる港町名物「赤てん」

「赤てん」は、島根県西部・浜田の港町で長く愛されてきたローカルフードです。鮮やかな赤色と唐辛子の風味から、刺激の強い料理を想像しがちですが、実際には魚のすり身の旨みがしっかりと感じられる、バランスの良い揚げ物です。
揚げたての赤てんは外側が香ばしく、中はふんわりとした食感。唐辛子の辛さはアクセント程度で、魚の甘みを引き立てる役割を果たしています。何もつけずに食べても成立し、好みによってはマヨネーズやレモンを添える店もあります。
浜田周辺では、赤てんは特別な料理ではなく、居酒屋や食堂で自然に注文される一品です。観光向けに誇張された存在ではないからこそ、旅先で出会うと「この街の日常」に触れたような感覚になります。夜の港町で軽く一杯、そんな場面がよく似合います。派手な主役ではありませんが、
中国・四国の旅を締めくくるにはふさわしい、静かな余韻を持ったB級グルメです。
3. 中国・四国のB級グルメは「旅の途中」でこそ輝く
中国・四国エリアのB級グルメを実際に巡ってみると、これらの料理が「目的地として食べに行く料理」であると同時に、「旅の流れの中で自然に出会う料理」でもあることに気づきます。
このエリアのグルメは、観光地の中心にどんと構えているというより、街歩きや移動の途中に、ふと目に入る場所で待っていることが多いのです。
港町では、昼と夜で街の表情が変わります。昼間は静かな通りだった場所が、夜になると屋台や酒場の灯りで賑わい始め、そこに地元の人と旅人が混ざり合います。高知の屋台餃子や浜田の赤てんのように、「腰を据えて食べる」というより、「流れの中で味わう」料理は、この土地ならではの空気感と相性が抜群です。
一方で、地方都市の食堂文化も、中国・四国の旅を支える大きな要素です。えびめしや今治焼豚玉子飯のような料理は、派手な演出があるわけではありませんが、昼時に店へ入ると、地元の人たちが当たり前のように食事をしています。その光景に混ざって同じものを食べることで、旅先でありながら“日常に入り込んだ感覚”を味わうことができます。
また、このエリアは移動距離と食事の相性が良いのも特徴です。都市間の距離が極端に長くなく、車やローカル線での移動が中心になるため、食事のタイミングが旅の区切りになりやすい。「次の町へ向かう前に一杯」「宿に入る前に軽くつまむ」「歩き疲れたあとに甘辛い丼で締める」──そんな小さな選択の積み重ねが、旅全体の満足度を大きく左右します。
麺類が多い印象を受けるかもしれませんが、中国・四国の麺料理は性格がはっきり分かれています。鉄板で香ばしく仕上げるもの、出汁の風味を楽しむもの、コクや甘みを前面に出すもの。その違いを意識して選ぶことで、「また麺か」という感覚ではなく、「次はどんな一杯だろう」という期待に変わっていきます。徳島ラーメンのように、同じ土地でも複数の系統が存在する例は、食べ歩きの楽しさをさらに広げてくれます。
中国・四国のB級グルメは、旅の主役を奪う存在ではありません。しかし、振り返ったときに「旅の記憶と一緒に思い出される味」になりやすい存在です。だからこそ、予定を詰め込みすぎず、少し余白を残した旅程の中で楽しむことをおすすめします。このあとまとめとして、今回の中国・四国編をシリーズ全体の流れの中で振り返りながら、これまで紹介してきた各エリアとのつながりにも触れていきます。
B級グルメを通して巡った“日本の食の地図”を、もう一度俯瞰してみましょう。
4. まとめ:中国・四国編で見えてきた“日本のB級グルメ地図”
全国を巡る「ご当地B級グルメ図鑑」シリーズを、第1弾から振り返ってみると、日本の食文化が決して一本の軸で語れないことが、改めて浮かび上がってきます。
地域ごとに気候が異なり、歴史や産業、暮らしのリズムが違えば、同じ“B級グルメ”という言葉で括られていても、その性格は大きく変わります。
北日本では、寒さや保存性を意識した力強い味が目立ち、都市部やその周辺では、多様な人の流れを反映したバリエーション豊かな料理が育ってきました。関西や九州では、食そのものがコミュニケーションの中心にあり、賑やかさや勢いが料理にも表れています。
こうして並べてみると、B級グルメは「安くてうまい料理」という単純な定義ではなく、その土地の暮らし方や価値観を映す鏡であることが分かります。
その中で、中国・四国編が示してくれたのは、派手さよりも“定着”を重んじる食文化でした。
観光向けに磨き上げられた料理よりも、地元の人が長く食べ続けてきた味が、そのままB級グルメとして成立している。今回紹介した料理の多くは、「ここでしか食べられない特別な料理」というより、「ここではこれが普通」という存在です。
この“普通さ”こそが、中国・四国エリアのB級グルメの最大の魅力と言えるでしょう。
旅人はそこに非日常を求めて訪れますが、実際に出会うのは日常の延長線上にある一皿。そのギャップが、記憶に残る体験を生み出します。日本の食の地図を俯瞰したとき、中国・四国は「旅と暮らしの境界線」を静かに教えてくれるエリアなのです。
シリーズを通して見えてきたのは、B級グルメが“ランキング”や“優劣”で語るものではない、という事実でもあります。どの地域にも、その土地でしか成立しない理由があり、その理由を知ることで、料理の見え方は大きく変わります。
中国・四国編は、そのことを最も穏やかに、しかし確かに伝えてくれました。
これまで紹介してきた第1弾から第5弾までの各エリアを思い返しながら、本記事を読み終えていただければ、日本各地のB級グルメが一枚の地図として頭の中に広がっていくはずです。
そして次に旅先を選ぶとき、ガイドブックではなく「どんな日常の味に出会いたいか」という視点が、新しい目的地を教えてくれるかもしれません。全国ご当地B級グルメ図鑑シリーズは、ここで一区切りとなります。
しかし、日本の食の地図は、まだ描き途中です。
このシリーズが、その続きを自分自身で確かめに行くきっかけになれば、これ以上うれしいことはありません。